
コンサルタントという仕事柄、また時にはメディアの依頼を受けて経営者へインタビューする仕事をいただいた経験から、これまで1000人以上の経営者とお会いしてきました。個人名はあえてあげませんが、日本で有名と言われる経営者の方々とも多くお話させていただいています。中にはそこからマーケティングコンサルの仕事に繋がることもあります。
今回は、残念ながらお会いしたことはありませんが、ご存命であったらぜひお話を聞いてみたかった経営者のご紹介をさせていただきます。
「名経営者:藤沢 武夫(本田技研工業 元副社長)」です。
名経営者 藤沢 武夫
本田技研工業の副社長として本田 宗一郎を支えてきた藤沢 武夫です。
本田宗一郎氏が技術・製品開発に集中出来たのも、藤沢 武夫が経営面で支えていたからと言われています。
例えば、藤沢 武夫は1959年にホンダのアメリカ進出を主導しました。当時、米国市場はハーレーダビッドソンなどの大型バイクが主流でしたが、藤沢は「スーパーカブ」のキャンペーンを展開し、米国市場におけるバイクのイメージを変革。これにより一般消費者層を開拓し、ホンダを世界的企業へと成長させるきっかけをつくりました。なおホンダは1959年に世界的なバイクレースであるマン島TTレースに参戦し、1961年に優勝しています。本田宗一郎の技術力を頭に入れながら、事業拡大の手を打っていたとも言えるでしょう。
素晴らしい製品も、販売網が弱ければ、売上は上がりません。本田 宗一郎が素晴らしいエンジン開発をした時、自転車にとりつけるようにし、自転車販売店で売り出した話は有名な話です。またそれだけでなく「ホンダショップ」という専売店網も全国に構築しました。こうした活動によりホンダのバイクの認知度は上がり、売上も上がり、かつ品質管理やアフターサービスも充実し、顧客満足度も高まるという形となりました。こうした販売網の整備ならびにその裏にある資金調達を行なったのも藤沢 武夫です。資金調達という点では、1953年の「カブF型」開発時には大規模な設備投資を行い、量産体制を築いています。
素晴らしい技術者が、なんの不安もなく開発に専念できる環境を整えてきたのが藤沢 武夫です。もちろん本田 宗一郎は素晴らしい技術者です。そしてバイクや車の未来を見据えられるビジョナリーでもあったと思います。裏方として動いていた藤沢 武夫がいなくても本田 宗一郎が素晴らしい技術者であることに変わりはありません。ただ、ホンダが日本を代表する企業になった背景には、素晴らしい技術者の才能をいかんなく発揮できるようにしていた経営者藤沢 武夫がいたことは紛れもない事実です。私も技術者ではありません。素晴らしい技術や製品を持つ企業を支える裏方です。こうしたバックボーンもあるので、小さな町工場だったホンダを世界的な企業にした裏方である藤沢 武夫に惹かれるのでしょう。
本田宗一郎の引退
最後に、もう一点、藤沢 武夫が経営者として素晴らしい部分を紹介します。それは本田 宗一郎の引退についてです。どんな素晴らしい技術者も、年を重ねれば、あらゆる能力が落ちていくのは自然の理です。だからこそ事業承継は本当に難しいのです。本人にやる気はある、そして出来ると思っているのですが、まわりからは衰えたとか時代についていけていないと思われることが一般的な例としてはよくあります。特にカリスマの引き際は困難を極めます。
本田 宗一郎の引退にあたり、藤沢 武夫は自らの引退を本田 宗一郎に告げます。そして本田 宗一郎も引退を決意するのです。会社の未来を考え、どのようにしたら本田 宗一郎が引退を受け入れるかも考えたと思います。受け入れた本田 宗一郎もすごいと思いますが、同時にカリスマを傷つけることなく引退させるという手腕も見事だと思います。その裏には、二人の間に信頼関係があったということも感じられます。技術・開発のトップと経営のトップ、経営者として、人として、藤沢 武夫に絶対の信頼があったからこそ、カリスマ本田 宗一郎は意図をくみ、自らの引退を決意したのでしょう。
なお後年、本田 宗一郎は日本人で初めてアメリカ自動車殿堂入りを果たしますが、帰国した足で、藤沢邸に向かい、すでに亡くなっていた藤沢 武夫の位牌にメダルをかけたという話もあります。
この事業承継は、二人が引退した後もホンダが成長していったことを見れば大成功だったと言えるでしょう。また、その後、長きにわたり社長は技術畑から出るということも、実は藤沢 武夫が数十年後の未来を見据えて後進に残したホンダ経営の資産なのではないかと感じています。
ホンダと言えば本田 宗一郎ですが、自身は決して目立とうとせず、やるべきことを粛々と実行し実現させ続けた藤沢 武夫。経営者として学ぶべきことが多い大きな存在です。
興味を持っていただいた方へ
藤沢 武夫に関する書籍は何冊か出ています。まず読んでいただきたいのは「経営に終わりはない」です。Amazonでも買えますし、図書館などにもあるのではないかと思います一読する価値はあると思いますので、よろしければご覧ください。
当社のコンサルティングは、小さな会社であったホンダが世界的企業に成長したように、ポテンシャルの高い技術・製品・シーズを持った中小企業や小規模事業者が持つ本来の力を引き出し、事業成長に繋げています。藤沢 武夫のように、当社は目立たせず、誠実に愚直に支援してきます。よろしければご相談ください。
※本文は敬称略
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